【完全分離型で実現】二世帯住宅を賃貸に出して活用する方法

「二世帯住宅」と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。親子世帯がひとつの住居で生活をともにする、少し窮屈な印象をお持ちの方もいるかもしれません。しかし、一言で二世帯住宅といっても、完全分離にするのか、部分同居にするのかなど、間取りや建て方ごとに特徴は違います。

戦後、核家族化が急速に進んだ日本ですが、少子高齢化の影響や子育て世帯の共働き家族が増えたこともあり、よりよく暮らすためのひとつの方法として、2011年の震災以降改めて二世帯住宅が注目されています。特にここ数年は、コロナ禍により離れて暮らす親や親族に会うことが難しくなり、ライフスタイルの変化も重なって、今後の住まい方を改めて考えはじめた方も多いのではないでしょうか。

今回は、家の購入を検討する際にひとつの選択肢となる二世帯住宅について、その魅力や長期視点での活用法、すなわち将来的な賃貸としての活用をご紹介します。

二世帯住宅の主な3つのタイプ

  1. 完全共有型:玄関と水回り設備を中心に住まいの多くの部分を両世帯で共有するタイプ
  2. 部分共有型:玄関やキッチンなど必要に応じて住まいの一部を共有するタイプ
  3. 完全分離型:上下や左右で区切り、全ての生活空間を分離し各世帯が独立しているタイプ

「二世帯住宅」と一括りにいっても、近年は完全同居型の間取りが主流とは限りません。エニワン会社が2019年に行った二世帯住宅に関するアンケート調査では、過去2年以内に二世帯住宅を建てた方のうち、タイプ別の割合は部分共有型が43%、完全共有型31%、完全分離型25%という結果でした。(参考:二世帯住宅に関するアンケート調査

親子世帯それぞれに異なる価値観や生活スタイルを尊重するため、各ハウスメーカーや工務店が提案する間取りは多様なものになっています。プライバシーの確保に重点を置き、完全分離型にバルコニーなど両世帯が行き来できるシェア空間を併設した完全別居の隣居スタイルもあります。

賃貸併用住宅の間取り図(一階)
完全分離の間取り図例

家の購入を検討している働き盛りの30~40代の夫婦層では子どもが幼いことも多く、まだ手のかかる育児と仕事の両立が目下の課題となる場合も多いでしょう。そんな時、ほどよい距離感を確保したうえでなにかあれば頼れる距離に親がいる安心感は、二世帯住宅で暮らす大きなメリット。二世帯住宅を検討する際には、敷地の広さや予算に応じた実現可能なプランであることを前提に、両世帯でどこまで住まい空間を共有するのか、あるいはしないのかの線引きが重要になります。

二世帯住宅のタイプ別メリット・デメリット

間取りタイプ別にメリット・デメリットを整理すると、次の表のようになります。

メリットデメリット
1. 完全共有型①建築コスト、維持費が抑えられる
②常に育児や家事を家族間で協力しあえる
①プライベートの確保が難しい
②生活費の負担割合が見えない(水光熱費の把握など)
③賃貸に出せない
2. 一部共有型①建築コストが抑えられる
②共有ゾーンの切り分け次第で、完全分離型より低いコストでプライベートの確保が可能
①共有しているゾーンによってはプライベートの確保が難しい
②共有ゾーンの収納や使い方のルール決めが必須
③賃貸に出せない
3. 完全分離型①別居と同等のプライベート確保が可能
②水光熱費が分けて把握できる
③賃貸に出せる
①他の2タイプと比べ建築コストや維持費が高い
②一定の土地の広さが必要

主にプライバシーとコストの面でそれぞれ違いがあります。一般に二世帯住宅を建てる際には、建設予定地で定められた建ぺい率(※1)や容積率(※2)次第ですが、駐車場含め土地(敷地)は60〜80坪程度、居住スペースは40〜50坪程度の床面積があればよいと言われています。完全共有型であれば、言ってしまえば狭小地でも可能、一方で、二世帯分の駐車場や庭を設けたり完全分離型となると広い土地が必要となります。

2世帯でどのように居住スペースを住み分けるかは、二世帯住宅を建てる上で最も重要なポイントです。大家族ならではの良さを享受しつつもどの程度の距離感で暮らすのか、掛けられるコストと確保するプライベートゾーンのバランスについては双方の世帯でじっくり検討する必要があるでしょう。

※1建ぺい率:敷地の面積に対する建築面積(建物が土地についている部分の面積)の割合のこと
※2容積率:敷地の面積に対する居住スペース全体の床面積の割合のこと
参考:​​​​​​​​​「建蔽率(建ぺい率)」「容積率」ってなに?知っておきたい、建物の規制とは

将来は二世帯住宅を賃貸に出す

また、複数世帯が住み続けていく二世帯住宅では数十年に渡って暮らしを営むわけですが、長い目で見た場合にその資産をどう活かしていくのかも大きな課題です。当然、単独世帯の戸建てより設備は大きく、家自体もそれなりの規模となります。親子孫3世代が元気で住んでいる間は問題ありませんが、子が独立、親が亡くなったあとなど、家族構成の変化によっては、のちのちその広さを持て余してしまうことにもなり兼ねません。先々への懸念から二世帯住宅の購入に踏み切れないケースもあるでしょう。

しかし、この先数十年単位で住まうあいだに、子が巣立つ、親の介護が必要になる、親のどちらかが先立ち片親と同居を検討するなど、ライフステージごとの家族構成の変化は単独世帯であっても起こりうること。起こってから場当たり的に対応するより、二世帯住宅であればその規模を活かした対応が可能です。お互いに趣味や仕事はまだ現役、別々のリズムで暮らすことに問題はないが、どうせ住宅ローンを払うなら将来のことを考えて今のうちに完全分離型で二世帯住宅を建てておく、というのは賢い住宅活用法のひとつと言えます。

完全分離型で建てたのち、親が先立ったあとにはその居住スペースを賃貸に出す、あるいは、まずは賃貸に出し、親との同居が必要になった段階で親世帯との二世帯暮らしを始めるなど、完全分離型であればご自身の居住スペースを確保したまま、もうひとつの居住ゾーンを切り分けて使うことができるのです。

関連記事:人生100年時代を賢く生き抜く住み方は? − 賃貸 vs 持ち家 vs 賃貸併用住宅

二世帯住宅を賃貸併用住宅に活用する際のポイント

完全分離型の二世帯住宅を将来的に賃貸併用住宅へと転用する場合、おさえるべきポイントは以下の点です。賃貸併用住宅→二世帯住宅という順序ももちろん考えられますが、ここでは二世帯住宅→賃貸併用住宅とする際のポイントをご紹介します。

賃貸併用住宅の成功例のギャラリー6

設計時からおさえておくべきこと

  1. 電気やガスメーターの分離
  2. 水回り設備の配置を工夫するなどの遮音対策
  3. 生活動線の切り分け

賃貸に出すことを想定するのであれば、世帯ごとの水光熱費の把握は必須です。また、各世帯の隣接部分には、長時間過ごすことのないスペース(バルコニー、クローゼット、玄関など)を配置するなど、できる限り双方の生活音を響かせないゾーニングや遮音対策が欠かせません。生活動線を考え、親子2世帯が暮らす段階からストレスの少ない間取りを採用することが、のちに賃貸併用住宅として活用する際の成否を分けるといっても過言ではありません。

関連記事:【間取り図あり】賃貸併用住宅の切り分けパターンと生活動線を考えた間取りとは?

賃貸に出す際におさえておくべきこと

  1. エアコンなど必要に応じた設備投資と適切な家賃設定
  2. 入居希望者にとって検討段階から魅力的に映るポイントを用意
  3. 運営は専門の管理会社に委託

空いた居住スペースを賃貸に出すことは、親族・家族がひとつ屋根の下に住むのとは違い、ご自身がオーナーとなって賃貸ビジネスを始めることです。賃貸併用住宅は継続的な家賃収入が得られるという大きなメリットがある反面、入居者を募るためそれなりにメンテナンスや運営費用が掛かるのも事実。二世帯住宅を転用し賃貸に出す際には、魅力的な物件となるよう、賃貸オーナーとして工夫も必要になります。

適切な家賃設定はもちろんのこと、必要に応じてクリーニングやリフォームを行い、賃貸物件としてアピールポイントを備えていることを意識しましょう。空室対策やアイデアなど詳しくはこちらの記事にも解説していますので、参考にしてください。また、定期的な設備点検・管理、入居者との契約締結やり取りや適宜対応など、賃貸経営に関わる実務は多岐に渡ります。不動産オーナー業を本業としているケース以外では、運営管理は信頼できる専門会社に委託することをおすすめします。

まとめ

国土交通省が2013(平成25)年に行った住生活総合調査によると、「最近5年間に行った住み替えの目的」では、「親、子などとの同居・隣居・近居」が10.6%となり、震災前の2008年調査時から2倍への結果となりました。直近の2018(平成30)年調査でも、「家族等との同居・隣居・近居」は11.8%で、住み替えの一定の理由となっています。

震災などの自然災害に限らず、コロナのような疫病、あるいは事故などで家族の健康がおびやかされる事態は、残念ながらどの家族にも起こりうることです。そんなとき、二世帯住宅の距離感で双方に協力しあえるとしたら、どんなに心強いことでしょう。

家は生活の基盤です。長期視点で余裕のある住まいのあり方を考えることは、まさに個人の、そして家族みんなの生き方を尊重することにもなります。家の購入を検討している方は、ライフステージの変化に合わせて柔軟に対応でき、賃貸併用住宅にも活用できる完全分離型の二世帯住宅を候補のひとつにしてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

矢澤佑規

・1982年10月7日生まれ
・専務取締役
・建築不動産業界歴20年
・不動産賃貸オーナー
【資格】
二級建築士、宅地建物取引士