3つの成功例から学ぶ、賃貸併用住宅で後悔しないプランニングのコツ

賃貸併用住宅は、うまく運用すれば実質0円でマイホームを手に入れられるとして注目されている不動産投資です。家賃収入で住宅ローン返済が賄えれば、それまで家賃として支出していた居住費分を投資や子供の教育費、老後資金に回せるなど魅力的な面が目立つ一方、空室期間があれば賃料分を自己負担し続けなければならないというリスクも忘れてはいけません。リスクを最小限に抑えるためには、賃貸併用住宅が投資ビジネスであることを認識し、シビアにリサーチとシミュレーションを行うことが重要です。

今回のコラムでは、賃貸併用住宅で後悔や金銭的破綻をしないために、実際に賃貸併用住宅を建てたオーナーの成功例3つと、失敗しないためのコツを紹介します。

賃貸併用住宅の3つの成功例

土地探しから始めて、賃貸併用住宅ビジネスをうまく軌道に乗せた3つの成功事例を紹介します。いずれもオーナーは若いご夫婦で不動産投資は初めてであり、運用歴は長くありませんが、3ケースとも現時点で収支はプラス、かつシミュレーション上は今後も収益が出続ける計算です。

1.2階部分に単身者用1K賃貸×2戸(埼玉県)

1件目は埼玉県で、少額ながら自己資金があるご家族のケースです。1階をオーナー住居(2LDK)、2階2戸(1K)を単身者向け物件として貸す横割り型(※)賃貸併用住宅です。

世帯収入750万円(夫:年収450万円、妻:年収300万円)
物件購入金額4,450万円
┝ 土地(約50坪):2,000万円
└ 建物:2,450万円(諸費用含む)
頭金50万円
住宅ローン借入額4,400万円(返済期間35年)
住宅ローン金利0.8%(0.6%+団体信用保険料0.2%)
月々のローン返済額120,146円(ボーナス払いなし)
家賃収入13万円(65,000円x2戸)
委託管理料6,500円(賃料の5%)
家賃収入からローン返済額と管理料を差し引いた手取り+3,500円
それまで支払っていた家賃105,000円(2LDK)

※関連記事:【間取り図あり】賃貸併用住宅の切り分けパターンと生活動線を考えた間取りとは?

家賃収入からローン返済額と委託管理料を差し引くと、現状毎月3,500円の黒字になっています。実質居住費ゼロなので、子供が小さくても生活には余裕があると話されています。以下は今後の家計シミュレーションですが、90歳まで賃貸併用住宅を運用した場合と、家賃を払い続けた場合での推計貯蓄額には8,000万円以上の開きがあります。

賃貸併用住宅の成功例1

2.2階部分にファミリー向け3LDK賃貸(東京都)

2件目は、東京都西部で、かなりの額の頭金が用意できる家族のケースです。ケース1同様、1階をオーナー住居(3LDK)、2階を賃貸物件とした横割り型賃貸併用住宅で、賃貸部分は3LDKのファミリー向け物件となっています。

世帯収入780万円(夫:年収530万円、妻:年収250万円)
物件購入金額6,000万円
┝ 土地(約50坪):2,500万円
└ 建物:3,500万円(諸費用含む)
頭金1,000万円
住宅ローン借入額5,000万円(返済期間35年)
住宅ローン金利0.725%(0.525%+団体信用保険料0.2%
月々のローン返済額135,000円(ボーナス払いなし)
家賃収入14万円
委託管理料7,000円(賃料の5%)
家賃収入からローン返済額と管理料を差し引いた手取り+2,000円
それまで支払っていた家賃120,000円(2LDK)

家賃収入からローン返済額と委託管理料を差し引いた手残りは、毎月2,000円。こちらのケースも、実質居住費なしの黒字経営です。将来的な家計シミュレーションでは、90歳まで賃貸併用住宅を運用した場合と、家賃を払い続けた場合の推計貯蓄額の差は9,000万円以上。ケース1よりも月々の家賃が高い分2年毎の更新料もかさみ、その差がより大きく現れています。

賃貸併用住宅の成功例2

3.縦割りファミリー向け3LDK賃貸(山梨県)

3件目は、観光地としても人気の山梨県富士五湖エリアで、一般的な額の自己資金があるご家族のケースです。ケース1・2と異なり、建物の左右に2家族が住めるようにした縦割り型賃貸併用住宅で、1〜2階(3LDK)にオーナーと貸借人が壁を隔てて住む形の物件です。

世帯収入700万円(夫:年収450万円、妻:年収250万円)
物件購入金額4,700万円
┝ 土地(約60坪):950万円
└ 建物:3,750万円(諸費用含む)
頭金500万円
住宅ローン借入額4,200万円(返済期間35年)
住宅ローン金利1.0%
月々のローン返済額119,000円(ボーナス払いなし)
家賃収入12万円
委託管理料6,000円(賃料の5%)
家賃収入からローン返済額と管理料を差し引いた手取り+1,000円
それまで支払っていた家賃85,000円(2LDK)

家賃収入からローン返済額と委託管理料を差し引いた手残りは毎月1,000円となっており、こちらも黒字経営です。シミュレーション上、90歳まで賃貸併用住宅を運用した場合と、家賃を払い続けた場合の推計貯蓄額の差は6,000万円以上となっています。

賃貸併用住宅の成功例3

破綻・後悔しないためのプランニング、6つのコツ

3つの成功例に共通している点は、オーナーが物件購入前に徹底的なリサーチとシミュレーションを行い、賃貸併用住宅ビジネスに対する心構えができていたことです。3オーナーが実践したプランニングのコツ6つを紹介します。

①家賃収入だけでローン返済が賄えるようにする

家賃収入だけでローン返済が賄えるように収支を設定しておくと、万一空室期間が長引いても家計が破綻しません。自分が支払うことになる賃貸部分の家賃出費が、住宅ローン返済額を大きく超えない範囲に収まるからです。3つのケースではいずれも、家賃収入からローン返済分を引いた手残りが毎月数千円発生するようにプラニングしています。

②建築を始める前に徹底的にシミュレーションする

空室や家賃下落リスクを最小限に抑えるために必須となるのは、金銭面と建築場所の2方向からの徹底的なシミュレーションです。まず、賃貸部分が全て空室になったり、出産・育児などで収入が減った場合も、無理なくローン返済できるかの金銭的なシミュレーション。さらに、最寄駅の乗降者数(※)、街への人の出入り、スーパーやコンビニの利用率など、地域のシミュレーションも物件価値を計る上で重要になります。3つの成功例のオーナーはいずれも、購入前にプロのアドバイスを受けながら収支と土地の調査・シミュレーションを重ね、これならいける!と納得後に購入に至った方々です。

※参考
JR東日本 駅別乗車人員ベスト100(2020年度)
東京メトロ 各駅の乗降人員ランキング(2020年度) 

③目を引くデザインで相場以上の家賃収入を目指す

家のイメージを決めるのは外観です。建築予定地周辺の賃貸住宅の外観をリサーチし、周りにないようなデザインを採用するのがポイントです。他と異なった趣の家は目立つので内見や入居の問い合わせが増えますし、良い素材を使った飽きのこないデザインの物件は入居者に長く住んでもらいやすくなります。さらに、周りに比較対象となる類似物件がなければ、相対的に高い賃料でも人が集まりやすくなります。

④入居者との距離感が保てる間取りにする

入居者に長く住んでもらうために、また、オーナーが気疲れしないために、お互いにストレスを感じずに暮らせる家づくりが重要なのは言うまでもありません。そのカギとなるのは、考え抜かれた間取りです。特に騒音は賃貸併用住宅においてトラブルになりやすいので、想定される入居者の生活パターン・動線をイメージし、生活音が気になりづらい間取りにします。例えば上階が単身者向け賃貸であれば、水まわりの下に寝室を置くと深夜まで水音に悩まされる可能性があります。成功例1では、1階にオーナー家族、2階に単身者が居住しているので、水まわりを同じ場所に設置しています。

横割り型賃貸併用住宅で、1〜2階をオーナー宅、3階を賃貸にするなら、2階にキッチン・浴室・リビングなど音が気にならない部屋を作り、1階に寝室を置くことで騒音に悩まされるリスクを抑えることができます。縦割り型のファミリー向け賃貸併用住宅であれば、水まわりを隣接する壁側に集約し、居住エリアは外壁側に寄せるなど、左右対称の間取りにすることでストレスを減らせます。成功例3のオーナーはこの対策を取った結果、入居者からの騒音クレームは今まで皆無で、自身と家族も快適に暮らせていると語っています。

賃貸併用住宅の間取り図(一階)
成功例3のオーナー宅の1階部分の間取り

⑤管理運営はプロに任せる

「大家だから」と必要以上に意識すると、些細なことでストレスがたまったり、常に緊張してくつろげないという状態にもなりかねません。賃貸部分の管理運営は、賃料回収など会計業務の他、各種の法定設備点検、契約更新手関連、原状回復に関する助言など多岐に渡るため、業務委託料を払って専門会社に任せるのがベストです。平均的には賃料の5%という手頃な料金で、入居者からのクレーム対応など面倒なこともプロに一任することができます。3つの成功例のオーナーはいずれも、月々一定額を払って管理業務を委託しています。

⑥損害保険には必ず加入しておく

賃貸併用住宅は通常のマイホームよりもスペースが大きく、建築費用も高額であるため、災害が起きた場合の損害や賠償額が莫大になるリスクがあります。万一に備えて、保険にはしっかり加入しておきましょう。保険に加入する際は、補償の対象と範囲をよく確認することが重要。例えば火災保険の場合、補償の対象が「建物のみ」なのか「建物と家財」一式なのか、また補償の範囲がどこまでなのか(火災、落雷、爆発、水災など)は保険会社によって異なるので、十分確認の上でプランやオプションを選択する必要があります。

補償の範囲が広くなればそれだけ保険料も高くなり、運用益に直結するので要不要のシビアな判断が必要になりますが、賃貸併用住宅のオーナーとしては建物自体の火災保険家財保険施設賠償責任保険を付加して加入しておくと安心です。また、貸借人の過失によって火災が発生することもあり得るので、賃貸契約の際には貸借人の火災保険貸借人の家財保険借家人賠償責任保険への加入を義務にしましょう。

※関連記事:自分はあてはまる?賃貸併用住宅で後悔するパターンとしないパターンの具体例

この記事を書いた人

矢澤佑規

・1982年10月7日生まれ
・専務取締役
・建築不動産業界歴20年
・不動産賃貸オーナー
【資格】
二級建築士、宅地建物取引士