不動産投資ではローンを組むのが最適解?ローンの種類や審査基準を徹底解説

投資用の不動産を購入しようと思った場合、よほどの資産家でないかぎり、すべてを自己資金でまかなうことは難しいのが現実。そこで多くの投資家が利用するのが金融機関からの融資(ローン)です。

ローンを利用するのは、物件の購入資金を調達するという目的だけでなく、実は利用することで得られるメリットが少なからずあるのを知っているでしょうか?そこで今回のコラムでは、不動産投資を行うときに欠かせないローンについて、資金調達でローンを組むことが最適解なのかという疑問に答えるとともに、ローンの種類、審査基準や金利について徹底解説します。

不動産投資の資金調達:ローンを組んだ方がいい?

「ローン」と聞くと借金というイメージが先行し、マイナスな印象を持つ方も少なくないと思います。しかし、あえてローンを組むことで得られるメリットもあることはあまり知られていません。

ローンを組んだ方がいい理由

(1)レバレッジ効果がある

自己資金が少ない場合でも、金融機関からの融資を利用することで自己資金額を大きく上回る物件の購入が可能になります。株式やFXなど、不動産以外の商品ではローンを組んで投資することはできません。不動産経営の収益は一般的に「保有資産額×利回り」で決まるため、高額の物件であればあるほど収益性を高めることができます。

(2)資金を手元に残せる

自己資金の全額を物件の購入資金に充ててしまうのではなく、手元にある程度の自由になるお金を残しておくことで、リスク分散や急な出費の際の備えになります。

不動産に一極集中で投資すると、経営がうまくいかなくなった時にその打撃をモロに受けてしまいます。残した資金を株式や債券など他の投資商品回すことでリスクを分散でき、安定的な収益確保につながります。

また、不動産経営では突発的な設備の故障や、空室が続いた場合のリフォーム・広告費など、予期せぬ出費がつきもの。投資以外でも自身や家族の病気、災害など、急な出費が必要になる場面も考えられますので、緊急時に困らない程度の資金を手元に残しておくのが得策です。

(3)団体信用生命保険に入れる

不動産投資ローンや住宅ローンを組むと入れる保険に「団体信用生命保険」(団信)があります。団信は、債務者が完済前に死亡したり高度障害を負った場合、ローン残債を弁済してくれる保険制度です。債務者は万一自分が死亡しても家族に債務を負わせることなく家賃収入のある不動産を残すことができ、金融期間は保険金からローン債務を回収できるので、両者にとってメリットがある仕組みです。

弁済の範囲は保険によって異なり、ガンや生活習慣病などにかかった場合でも保険金が下りる商品もありますので、契約前に保障内容をよく確認することをおすすめします。

通常の生命保険との大きな違いは、以下の4点です。保障内容が重複する部分としない部分があり、同時加入もできるので、自分の家族構成やライフスタイルと合わせて検討しましょう。

団体信用生命保険一般的な生命保険
保障内容限定的
(死亡やローン返済が困難な病気にかかった場合)
多岐にわたって選択できる
(死亡、三大疾患、女性特有の疾患、ケガなど)
保障期間ローンを完済するまで大きく「定期」と「終身」の2種類があり自由に選べる
保険金の取り扱いローン返済に充てられる保険金・給付金が現金で支給される
保険料・借入金利に上乗せされ、契約者の属性による違いはない
・ローン残債に応じて安くなる
・年齢、性別、保証期間などにより異なる
・保険料の見直しは契約者が希望した場合のみ

(4)金利を経費にできる

不動産投資ローンの支払い利息は、不動産経営の経費に計上できます。経費を漏れなく申告し、給与所得との損益通算を行って総所得金額を抑えることで、所得税と住民税を下げることができます。詳しくは関連記事(不動産投資は節税になる」は本当か?かかる税金と知っておくべき節税のコツ)をご覧ください。

◼︎不動産投資の経費

  • 租税公課:不動産取得税、免許登録税、印紙税、固定資産税、都市計画税、個人事業税、消費税(税込処理している場合)
  • 損害保険料
  • 減価償却費
  • 修繕費
  • 管理委託費
  • 借入金の支払い利息
  • 税理士報酬
  • その他雑費:広告宣伝費、交通費、通信費など

不動産投資で利用するローン

物件を購入するために利用するローンには、不動産投資ローン(アパートローン)住宅ローンがあります。投資物件において活用できるのは基本的には不動産投資ローンですが、一部の物件に限って住宅ローンを使うこともできます。

不動産投資ローンと住宅ローン

原則として、賃貸物件の購入には不動産投資ローン、自宅の購入には住宅ローンという住み分けがされています。賃貸経営が目的の物件購入に住宅ローンを使うのはルール違反であり、融資元の金融機関に知られれば借入金の全額一括返済を求められることもありますので注意しましょう。

不動産投資ローンと住宅ローンの基本的な違いは以下の表のとおりです。不動産投資ローンは返済原資が毎月の家賃となるため、住宅ローンに比べて審査が厳しくなります。

住宅ローンと不動産投資ローン

しかし、賃貸目的であるのに例外的に住宅ローンが組める物件もあります。自宅と賃貸物件が同じ建物内にある「賃貸併用住宅」です。住宅ローンは自分や家族が住むための家を購入するためのローンなので、不動産投資ローンに比べて金利が低く設定されており、融資の審査も緩めなことがメリットです。

賃貸併用住宅の建築・購入に住宅ローンを利用したい場合、「自宅部分が50%以上である」という条件を満たさなければなりません。収益性を重視して賃貸部分の面積を半分以上にしてしまうと住宅ローンが適用されなくなるので注意しましょう。

関連記事:賃貸併用住宅は不動産投資ローンではなく住宅ローンにすべき理由 – 申請手順まで紹介

サラリーマンはいくら借りられるのか?

不動産投資に必要な金額は「物件価格+諸費用」です。物件価格のうち、自己資金(頭金)を引いた部分で融資を受ける必要があります。物件価格の全額の融資を受けられる「フルローン」や、諸費用も含めてローンを組む「オーバーローン」もありますが、返済計画がかなりシビアになるのでおすすめできません。

不動産投資ローンは案件によって個別に審査されるため、融資額の上限は明言されていませんが、一般的にサラリーマンが受けられる融資額は年収の10倍程度とされています。仮に年収700万円の人であれば、7,000万円程度の融資を受けられると想定されます。

不動産投資ローンは住宅ローンと異なり、融資にあたっては「債務者の属性」だけでなく「不動産の収益性」も厳しく審査されるため、そのぶん融資の難易度も上がります。「債務者の属性」にあたるのは年収、勤務先と勤続年数、住居(持ち家か賃貸住宅か)、家族構成、保有する金融資産などです。

頭金はいくら用意すべき?

前出のように、頭金を含めて融資を受けるフルローンという選択肢もあり、自己資金ゼロで不動産投資を始めることは不可能ではありません。しかし、最近はフルローンを組むこと自体が難しいこと、その後の返済の負担が重くなることを考えると、頭金を多く用意できるに越したことはありません。頭金を入れた方が融資の審査に通りやすいという事実もあります。

金融庁による「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」(2019年)では、銀行では80%以上、信用金庫や信用組合では60%以上が1/3の案件で物件の購入資金の一部を顧客の自己資金でまかなわせているとの報告があります。

では実際どのくらいの頭金が必要なのかというと、物件購入価格の10%が最低ラインで、理想は30%と言われています。つまり4,000万円のアパートを購入する場合は最低で400万円、1,200万円用意できれば理想的ということです。さらに頭金の他に、税金や手数料などの諸費用として物件購入価格の7〜8%を見積もる必要がありますので、初期費用はトータルで680万円〜1,520万円程度になります。

不動産投資ローンと住宅ローンは併用できるのか?

不動産投資ローンと住宅ローンは一緒に組むことができます。先にマイホーム購入のために住宅ローンを組んでいて後から投資物件購入のために不動産投資ローンを組むことも、先に不動産投資ローンを組んでいて後から住宅ローンを組むことも、どちらでも可能です。住宅ローンは個人の返済能力、不動産投資ローンは物件の返済能力、と返済原資が別だからです。

ただし、住宅ローン→不動産投資ローンの順番で併用する場合、不動産投資ローンの融資額から住宅ローン残債が減額されます。融資額をフル活用するには、不動産投資ローン→住宅ローン、の順番で組むのがベターでしょう。先に購入した投資物件からの家賃収入で総収入が増えることで、住宅ローン審査においてもプラスに働きます。

不動産投資ローンの審査基準

融資元の金融機関は、「不動産の担保価値」と「債務者の属性」の2つの面から融資の可否と融資額を判断します。つまり、融資を受けやすい物件かどうか、融資を受けやすい人かどうか、ということです。

融資を受けやすい物件かどうか:不動産の担保価値

担保価値は、エリア、路線価、種別(鉄筋コンクリート、鉄骨、木造)、築年数、利回りなどから判断されます。審査にあたっては綿密な事業計画が要求されますが、融資元にとって重要なのは計画通りに経営ができるかどうかではなく、“経営が破綻してローンが返済できなくなった時に物件を売却して残債を相殺できるかどうか”です。つまり、不動産そのものの価値が重要ということです。

土地の価値はエリアや路線価で決まり、路線価の70〜80%が金融機関の担保価値になると言われています。路線価が高いと融資自体も受けやすく、売買もしやすい反面、販売価格も高くなる傾向があります。

建物の価値は構造や築年数によって決まります。構造は、当然ながら建物が頑強な方がより高価値で(鉄筋コンクリート→鉄骨→木造の順)、築年数も新しいものが古いものより価値が高く見積もられます。

融資を受けやすい人かどうか:債務者の属性

属性は、年収、資産状況、連帯保証人の有無などで判断されます。当然ながら審査する側も人間なので、職業といった収入に直結する部分だけでなく、担当者に良い印象を与えられるかといった部分も大事になってきます。

◼︎融資に影響する属性

  • 継続して安定的な収入があること(勤続年数が長い、上場企業の管理職、公務員…)
  • 住宅ローンなどの他の借入金が大きくないこと
  • 返済計画が堅実であること
  • 不動産経営に対するビジョンがあること(不動産の知識、勉強の意欲、事業収支計画…)
  • 延滞歴や滞納歴がないこと
  • 担当者の心証が良いこと

不動産投資ローンの金利

ローンの金利には固定と変動がありますが、不動産投資ローンの約9割は変動金利と言われています。融資審査と同様、金利も債務者の属性や事業の信頼性に影響を受けるのに加え、どの金融機関から融資を受けるかによっても変わってきます。

◼︎固定金利と変動金利の比較

固定金利変動金利
メリット返済額が一定→リスクが少ない固定金利よりも金利が低い傾向
デメリット金利が下がった場合も高い金利で返済を続けなければならない長期金利の変更によって金利が変わる

◼︎どの金融機関で融資を受けるか

金融機関審査年収目安金利相場特徴
メガバンク(都市銀行)非常に厳しい1,000
万円〜
低い
1%前後
全国に支店がある
地方銀行厳しい700
万円〜
やや高め
1.5〜4%台
・銀行によって不動産投資に積極的かは大きく異なる
・本店エリア内に物件があることが条件の場合が多い
・金利の幅が広い
信用金庫・信用組合やや厳しい500
万円〜
やや高め
2〜3%台
・営業エリアが限定的
・支店エリア内に物件や申込者の住所があることが条件の場合が多い
日本政策金融公庫比較的緩い400
万円〜
低い
1〜2%台
・財務省所管の政府系金融機関
・金利は固定のみ
・女性やシニア層への優遇措置あり

日本ではバブル崩壊後の1999年2月以来、一時的な解除時期を除いて20年以上にわたりゼロ金利政策が取られています。この超低金利時代に今後これ以上金利が下がることは考えづらく、固定金利でローンを組んでものちのち大きく不利になる可能性は低いと言っていいでしょう。

反面、これから金利が上がっていく可能性が高いですが、変動金利を選択した場合でもセーフティネット(※)があるため、次の月からいきなり金利が倍増するという事態にはなりません。日本の国内銀行の貸出金利の推移を見てみると、28年間下がり続けたのち、ここ5年間でほぼ横ばいになっています。日本銀行による低金利政策が続く間は変動金利でも大きな動きはないと見ていいでしょう。

出典:日本銀行「貸出約定平均金利」

国の経済状況と金利政策をウォッチし、長期で見たときにどちらが自分に有利かを検討してください。金利が上がるということは国の経済状況が上向いてきている証拠なので、マイナス面だけでなく、不動産経営には有利に働くことが多いことも覚えておくべき視点です。

矢澤佑規
矢澤

変動金利には、「5年ルール」と「1.25倍ルール」というセーフティネットがあります。金利の見直しは年2回行われていますが、「5年ルール」により、毎月の返済額は最初の返済から5年間は増減しないことになっています。また、急激な返済額の増加を防ぐため、金利見直し後の返済額は前回の125%までしか上げてはいけないという「1.25倍ルール」が設けられています。

ローン返済に失敗する4つのパターンと対策

不動産投資でローンを組んだ場合、返済が滞りなく行えるかどうかが経営のカギとなります。借入額が大きいぶん破綻のリスクも高まることに不安を感じる方も少なくないと思いますが、実は不動産投資ローン返済の失敗にはいくつかのパターンがあります。失敗パターンを学び、回避するための対策を取っておくことでリスクは大幅に抑えられます。

失敗(1)割高な物件を購入している

不動産の価格は需要と供給で決まるので、条件が良い物件は割高で販売されることがあります。しかし物件を実力以上の価格で購入してしまうと、家賃を相場より高く設定しないと利回りが悪くなる一方、家賃が相場より高いことで入居者が付きにくくなるという悪循環に陥ってしまいます。収益が期待した額に及ばず手放す場合も、売却益がローン残債に満たないという事態も起こり得ます。

【対策】
・立地・間取り・築年数など条件が同じ物件と比較して相場感をつかみ、物件が適正な価格であるかを見極める
・複数の不動産会社から見積もりを取ったり、どの金融機関でも評価額が同じなのかを比較検討する

失敗(2)長期的な収支シミュレーションが甘い

空室や賃料下落などのリスクや、修繕や設備投資など維持費の見積もりが甘い場合、当初の想定どおりに収入が得られず、ローン返済が滞る場合があります。不動産は経年劣化によって取れる賃料が下がっていくこと、その対応としてかかるリフォーム代などを考慮しておかないと、空室が続き収入が途絶えるリスクにつながります。

【対策】
・収支を厳しめに見積もり、手元にもある程度自由資金を残しておく
・近隣の賃貸物件の賃料をリサーチし、相場感をつかんだ上で長期的な賃料シミュレーションを行う

失敗(3)返済能力を超えるローンを組む

不動産投資ローンの審査では、物件の収益性だけでなく個人の年収や資産などの属性も加味されるため、物件の能力以上の融資を受けられてしまうことがあります。借入額が大きくなればその分利息も膨らみますので、融資限度額いっぱいやフルローンで借り入れるのは危険と認識し、ライフプランや人生で起こりうるトラブルも考慮しながら返済計画が現実的かどうかを判断しましょう。

【対策】
・借入額は家賃収入と余裕資金でまかなえる範囲にとどめる
・頭金を相場程度(1〜3割)は入れておく

失敗(4)経営に失敗した場合の売却を想定していない

不動産経営に失敗しても、物件を売却してローン残債を一括完済できれば生活が破綻するまでには至りません。物件を購入する際の指標として「利回り」がありますが、利回りだけを見て物件の資産価値を見ずに購入した場合、売却時に思うような値段が付かず、売るに売れないという事態に陥ります。

【対策】
・資産価値が下がりにくい物件を選ぶ
・売却する前提で最終的にプラスになるかをシミュレーションしておく

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この記事を書いた人

矢澤佑規

・1982年10月7日生まれ
・専務取締役
・建築不動産業界歴20年
・不動産賃貸オーナー
【資格】
二級建築士、宅地建物取引士