不動産投資の「利回り」とは?失敗しないために理解すべき種類の違い・計算方法

不動産投資を考えて物件をリサーチしていると、頻繁に目にする「利回り」という単語。不動産投資の収益に大きな影響を与える指標ですが、その数字が何を意味しているかを理解していないと不動産購入時の判断ミスを招くことがあります。

今回のコラムでは、不動産投資の利回りが何を表す数値なのか、なぜ利回りが重要なのか、利回りの種類や相場について徹底解説します。

不動産投資の「利回り」とは?

不動産投資において、投資物件に対する利益を示すものが「利回り」。購入を検討している物件を比較するときの指標として使われるのが一般的です。利回りとひとくくりで言っても「表面利回り」、「実質利回り」、「想定利回り」、「期待利回り」など色々な種類があり、計算方法も違えば数値や意味も異なるので違いを知っておくことが重要です。

表面利回り(グロス利回り)

物件購入価格に対して1年間で得られる収益(家賃収入)の割合を示すのが「表面利回り」です。経費を無視して表面的な収益性だけを見たものなので、表面利回りが実際に得られる利益と直結しない点を認識しておきましょう。不動産情報サイトなどに掲載されている利回りはほとんどがこの表面利回りになります。

【計算方法】
表面利回り = 年間家賃収入(中古の場合は空室反映) ÷ 物件購入価格 × 100

中古物件の場合は、年間家賃収入に売り出し時点の空室状況を反映します(例えば、10室のうち2室が空室だったら入居中の8室分の家賃収入を元に計算)。新築の場合は入居実績がないため、満室想定での家賃収入で計算することになります。

【例】 
購入価格5,000万円、年間家賃収入420万円(家賃7万円、6室のうち1室が空室=空室率17%)のアパート
   420万円 ÷ 5000万円 × 100 = 8.4%

実質利回り(ネット利回り)

年間家賃収入から諸経費を引いた収益で計算するため、より経営実態を反映した利回りです。不動産経営をする上で重視すべきなのは現実に即したこの実質利回りですが、不動産の売買情報に記載されていることはほぼないので、情報を集めて自分で計算しなければなりません。新築で空室率が予測できない場合は、10%の空室リスクを想定して計算しておきましょう。

【計算方法】
実質利回り = (年間家賃収入 − 年間維持管理費) ÷ (物件購入価格 + 購入時諸経費) × 100

【例】
購入価格5,000万円、年間家賃収入420万円(家賃7万円、6室のうち1室が空室=空室率17%)のアパート
購入時諸経費400万円(物件価格の8%)、年間維持管理費101万円(満室時家賃収入の20%)
   (420万円 − 101万円) ÷ (5000万円 + 400万円) × 100 = 5.9%

賃貸物件にかかるおもな維持管理費は以下のものです。

  • 固定資産税、都市計画税
  • 管理委託費
  • 修繕・メンテナンス費
  • 損害保険料
  • 広告宣伝費
  • 共有部の光熱水費

関連記事:「不動産投資は節税になる」は本当か?かかる税金と知っておくべき節税のコツ

想定利回り

満室の場合の年間家賃収入から計算する利回りです。不動産経営ではほぼ不可能と言っていい「100%満室がずっと続いた場合」での理想上の利回りなので、参考程度に見るに止めましょう。

【計算方法】
想定利回り = 年間家賃収入(満室の場合) ÷ 物件購入価格 × 100

【例】
購入価格5,000万円、年間家賃収入504万円(家賃7万円 × 6室)のアパート
   504万円 ÷ 5000万円 × 100 = 10.1%

期待利回り

満室想定ではないものの、その物件の条件から期待される年間家賃収入で計算する利回りです。

【計算式】
期待利回り = (期待される)年間家賃収入 ÷ 物件購入価格 × 100

【例】
購入価格5,000万円、年間家賃収入454万円(家賃7万円 × 6室、空室率10%を想定)のアパート
   454万円 ÷ 5000万円 × 100 = 9.1%
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利回りはなぜ重要なのか

利回りは、不動産投資で「どのくらいの投資でどのくらいのリターンがあるか」を測る指標として重要です。しかし、利回りの高い・低いだけが利益を反映するわけではない点は注意が必要です。

利回りが高い物件は、家賃収入に対して物件購入価格が低いということ、つまり元手に対して利益率が高いということです。ここに属するのはおもに中古物件や地方物件になります。逆に利回りが低い物件は、家賃収入に対して物件購入価格が高いということで、価格に比例して物件の価値が高い傾向があります。つまり、空室率を低くキープでき、安定的な収入を生み出す可能性が高い物件とも言えます。

実質利回りを計算する場合、空室も考慮して計算するので、空室率が低ければそのぶん利回りも良くなります。では、購入価格と空室率が利回りにどれだけ影響を与えるかを具体的に見てみましょう。

例として、購入価格が5000万円/3000万円で異なるアパート(家賃7万円×6室、満室時の年間家賃収入504万円)を、空室率10%/40%で運用した場合の実質利回りを比較してみます。購入時諸経費は物件価格の8%(5000万円の場合400万円、3000万円の場合240万円)、年間維持管理費は満室時家賃収入の20%(101万円)と想定します。

空室率が低い
(例:10%)
空室率が高い
(例:40%)
物件購入価格が低い
(例:3000万円)
◎(少額投資・高リターン型)

(家賃収入454万円 − 年間維持管理費101万円)÷(購入価格3000万円+ 購入時諸費用240万円)× 100 = 10.9%
○(中古物件・効率重視型)

(家賃収入302万円 − 年間維持管理費101万円)÷( 購入価格3000万円 + 購入時諸費用240万円)× 100 = 6.2%
物件購入価格が高い
(例:5000万円)
○(高価値物件・安定収入型)

(家賃収入454万円 − 年間維持管理費101万円)÷ (購入価格5000万円+ 購入時諸費用400万円)× 100 = 6.5%
×

(家賃収入302万円 − 年間維持管理費101万円)÷ (購入価格5000万円 + 購入時諸費用400万円)× 100 = 3.7%

言うまでもなく、資産価値のある物件を安く買えるのが一番ですが、個人でそのような物件を見つけるのは至難の技です。そこで、パターンとしては、購入価格が高くても安定的に借主を見つけられる物件(新築、設備充実、立地が抜群、など)か、ある程度の空室が想定されても購入価格を抑えて利回りを確保する(中古物件、地方都市、など)、の2つが考えられます。後者の場合は、購入時よりさらに入居率が下がった場合の対策はしっかり考えておく必要があります。

利回りの相場を知る

前項であげたように、不動産価格と利回りは反比例しています。エリアや不動産の価値が高いとそのぶん販売価格も上がり、反対に利回りは低くなる傾向があります。

では、具体的には地域によって平均的な利回りにどのくらいの差があるのでしょうか。日本不動産研究所の「第45回不動産投資家調査(2021年10月現在)」によると、賃貸住宅の期待利回りは以下のようになっています。

◼︎東京都内

住宅の種類立地条件/類型期待利回り取引利回り
ワンルーム城南地区(目黒区、世田谷区)
城東地区(墨田区、江東区)
4.0%
4.3%
3.8%
3.9%
ファミリー向け城南地区(目黒区、世田谷区)
城東地区(墨田区、江東区)
4.2%
4.3%
3.9%
4.0%
外国人向け高級賃貸住宅低層型(麻布・赤坂・青山地区)
超高層型(麻布・赤坂・青山地区)
4.4%
4.4%
4.0%
4.0%
出典:日本不動産研究所「第45回不動産投資家調査(2021年10月現在)

◼︎その他の地域

地区ワンルームファミリー向け
札幌5.3%5.5%
仙台5.3%5.5%
さいたま5.0%5.0%
千葉5.0%5.0%
横浜4.5%4.8%
名古屋4.8%5.0%
京都5.0%5.1%
大阪4.6%4.7%
神戸5.0%5.1%
広島5.5%5.6%
福岡5.0%5.0%
出典:日本不動産研究所「第45回不動産投資家調査(2021年10月現在)

都市部の物件の方が利回りが低めで、地方都市の方が高め、かつ、ワンルームよりもファミリー向け物件の方が高めである傾向がつかめます。地方の方が東京都内に比べて物件の購入価格が安いので利回りも高く出ていますが、地方は場所によっては空室リスクが高まるので、賃貸需要が安定しているエリアの見極めがカギになります。

利回りの理想はさまざまな条件が影響するので一概には言えませんが、目安として区分マンションは新築で5%、中古で6〜8%戸建て物件は新築で8%、中古で10%と言われています。

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賃貸併用住宅の利回り

自宅と賃貸物件が同じ建物の中にある賃貸併用住宅は、賃貸部分の面積が限られるため、利回りは一般的な賃貸物件よりも低くなります。利回りの目安は3〜4%と言われています。前出の「第45回不動産投資家調査(2021年10月現在)」でファミリー向けに相当する賃貸住宅(50〜80平方メートル、築5年未満、最寄駅から徒歩10分以内)の期待利回りは5.12%なので、それと比較すると賃貸併用住宅の利回りが低めであることが分かるでしょう。

さらに賃貸併用住宅の購入・建築で住宅ローンを利用する場合には、自宅部分が50%以上という制限があるので、一般のアパート並みに戸数を増やすことは難しくなります。そのため、高い利回りを期待する場合の不動産投資先としては賃貸併用住宅は向きません。あくまでマイホーム取得とアパート経営を同時に実現できるものとして、割り切って運用するのがよいでしょう。

関連記事:
賃貸併用住宅は不動産投資ローンではなく住宅ローンにすべき理由 – 申請手順まで紹介
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利回りで物件を見るときの注意点

利回りの高い物件には理由があります。不動産売買サイトを見ていると、利回り10%以上、中には10%台後半という高利回り物件が目を引くことがありますが、安易に飛びつくのは危険です。その物件がなぜ高利回りなのか、理由をリサーチして本当に購入に値する物件なのかを確かめましょう。

◼︎高利回り物件のチェックポイント

(1)表示されている利回りの種類は?

ほとんどが表面利回りで現実に即していない、中には想定利回り(満室想定)のものも

(2)立地は?

賃貸需要があるエリアかどうかを見極める

(3)築年数と修繕履歴は?

メンテナンス不足の古い物件だと購入後に多額の修繕費用が発生することも

(4)賃料は適切か?

想定賃料を相場より高く設定して利回りをよく見せているケースに注意。レントロール(※)を確認して周辺の家賃相場をリサーチ

(5)事故物件ではないか?

入居者が付かない可能性が高い

矢澤佑規
矢澤

部屋ごとの契約状況、間取、賃料などが記載された一覧を「レントロール」と言います。貸借状況一覧表や家賃明細表とも呼ばれ、賃貸契約の内容や条件が把握できるようになっています。不動産売買において、物件の収益性を判断する資料として使われます。

まとめ

不動産投資における利回りで注目すべきなのは、不動産経営にかかる諸経費も考慮した「実質利回り」です。多くの不動産情報で表示されているのは諸経費を含めない「表面利回り」や「想定利回り」なので注意しましょう。

利回りは不動産の収益性を測る重要な指標ではありますが、不動産投資が成功するか否かを決めるのは利回りだけではありません。利回りが低い物件は資産価値が高い=空室リスクが低い傾向にあり、安定した収益を得やすいとも言えるのです。

物件価格を抑えてリターンが多く得られる物件を選ぶか、物件価格が高めでも需要が安定していて収益確保しやすい物件を選ぶか、それぞれの投資スタイルや人生設計を踏まえて十分に検討することをオススメします。

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この記事を書いた人

矢澤佑規

・1982年10月7日生まれ
・専務取締役
・建築不動産業界歴20年
・不動産賃貸オーナー
【資格】
二級建築士、宅地建物取引士